研究概要 |
本研究の目的は砂漠のような海底に突如として現れる有機物の塊に形成される生物群集における微生物の役割についての理解である。本年度は主にこれまで得られているサンプルからのDNA抽出とtRFLPによる多様性解析、及び細菌の分離培養を実施した。本年度も他研究者の協力により相模湾初島沖の鯨骨域の調査を実施した。この調査から「Sagami」から69,77ヶ月、「Satomi」から25,33ヶ月後のサンプルを回収した。前年度行った一部のクローン解析結果から、制限酵素による切断パターンの推定を行い、鯨骨域での微生物相の変化をおった。リファレンス(鯨骨から10m以上離れた場所)の堆積物からはMarine Group IやMiscellaneous Crenarchaeotic Groupといった未培養Archaeaが検出されている。その一方、鯨骨直下及びその脇からはMethanomicrobia綱のメタン生成Archaeaが検出されている。広がりに関しては、鯨骨から2m以上離れるとリファレンス堆積物と同様な組成を示したことから、鯨の遺骸の影響範囲は、2m以内であることが示唆された。鯨の遺骸には、鯨骨に特異的に生息するホネクイハナムシ類と呼ばれる多毛類の一種が存在する。このホネクイハナムシ類はルートと呼ばれる部分に共生細菌を保持しており、従属栄養性のGammaproteobacteria綱のOceanospirillales目に属すと言われている。分離培養を試みた結果、本共生細菌クラスターに属する株5株の分離に成功した(16SrRNA遺伝子の相同性99%以上)。このことにより、ホネクイハナムシ類-共生細菌の共生機構を解明するための足がかりを得ることができた。
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