研究概要 |
腐性ブドウ球菌は尿路感染症の主要な原因菌であり,若年女性の尿路感染症の15%程度が腐性ブドウ球菌により引き起こされている.『女性の60%以上が一生に1回以上尿路感染症を発症する』という統計を考慮すると,腐性ブドウ球菌に関する基礎研究は社会的要請の高いものであるといえる.病原性細菌が感染する際,ホスト細胞への接着は感染の成否を決定する重要な過程となる.ブドウ球菌属の細菌は,細胞表面に存在する接着因子蛋白質を用いてホスト細胞に定着するが,腐性ブドウ球菌には1種類の接着因子(uro-adherence factor A; UafAと略)しか存在しない.これは,尿路という激しく尿が流動する過酷な環境下において,腐性ブドウ球菌がUafAのみを用いてホスト細胞に定着することを示唆しており,非常に興味深い.本研究では,X線結晶構造解析により,UafAによるリガンド認識機構を解明する. 今年度は,UafAのN2-N3-Bドメインの種々の変異体を調製し,これらの蛋白質の赤血球結合活性を比較した.その結果,これまでは,細胞接着に関与していないと考えられてきた,Bドメインが,細胞接着に重要であることが明らかになった.さらに,Bドメインの構造を,既知の細胞接着因子のものと比較した結果,UafAに特有な領域はN2,N3ドメインに面していることから,N2,N3とBドメインの間でリガンド分子をキャプチャーするという分子機構が提案された.上記の結果は,Protein Science誌に掲載された.
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