研究概要 |
FtsHやプロテアソームなどのAAA^+プロテアーゼの分子メカニズムを理解する上で共通する未解決な疑問は、「AAA^+プロテアーゼはATP加水分解に伴って、いったいどのようにして基質を連続的に内部に送り込んでいるのだろう?」ということである。この問題に対するアプローチとしてはその酵素の構造を決定することが有効な手段である。本研究ではFtsHの「動き」に着目する。具体的には1.抗体を用いたFtsHの全体構造のX線結晶構造解析や2.様々なヌクレオチド結合状態のFtsHのX線結晶構造解析、3.構造安定化変異体のスクリーニングを行う。以上から得られる構造情報を元にFtsHの基質をとりこむ動きや基質の通り道を明らかにし、上述の疑問の答えを導き出したい。本年度は2, 3について特に大きな進展があった。FtsHの細胞質ドメインを用いて様々なヌクレオチド(ADP・AlFx, ADP・BeFx, AMPPNP, ADPなど)存在下でp212121の空間群の結晶を作製し、それぞれ約3.5Å前後の分解能データを取得できた。分子置換法により解を得たので、現在精密化中である。p212121の結晶はフレキシブルな領域がこれまでの結晶では3.9Å分解能が最大であるので、今回の構造からより精度の高い情報が得られ、この領域のFtsHの分子メカニズムへの重要性が明らかになることが期待される。また、結晶化条件検討の過程でC2の空間群の結晶も得られ、約4.3Å分解能データを取得した。分子置換法により解を得、現在精密化中である。この結晶はFtsHが生理的条件下で機能する構造と考えられる六量体リング構造であり、新規ヌクレオチド結合状態の超分子構造として決定できると期待される。これらの構造を決定することにより、FtsHのATP依存的な構造変化や基質の通過経路、反応スキームを詳細に理解でき、さらに正確な反応モデルを提案したい。
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