多様な核・細胞質間輸送システムによって真核細胞の生理機能が巧みに調節される機構を明らかにすることは、細胞生物学のひとつの重要課題である。CRM1は最も代表的な核外輸送受容体(exportin)である。CRM1は細胞周期間期においては、Leu-rich NES (nuclear export signal)をもつ輸送基質(cargo)を核から細胞質に運ぶ。さらにCRM1は細胞分裂期において有糸分裂紡錘体の形成や中心体の数の制御などの重要な機能も持つ。これらCRM1が担う生理機能の根幹は、RanGTPaseが作り出す細胞内位置情報に基づいて、CRMIとNES-cargoの結合・解離が巧みに制御されることにある。本研究では、CRM1による輸送の方向性の鍵を握る、細胞質におけるCRMI:NES-cargo:RanGTP複合体解体反応の中間体に相当するCRM1:RanBP1:RanGTP複合体の結晶構造を、2.0オングストローム分解能という高分解能で解いた。この3者複合体の構造では、NESが結合する疎水性の溝が閉じており、CRM1:NES-cargo:RanGTP複合体の結晶構造との構造比較により、RanBP1がNESの解離を促進するアロステリック機構の原子レベルでの詳細が明らかになった。また、NES-cargoのCRM1への結合がRanGTPに依存するのは、RanGTPによりCRM1のループのコンフォメーションが大きく変化するためであることも示唆された。
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