研究概要 |
本課題は、メチレン基のpro-R、あるいはpro-Sの^1Hを^2Hに置き換えた二種類のSAILシステインを同時に取り込ませた蛋白質を利用して、S-SをはさんだHβ-Hβ間NOEを観測することにより、S-S結合の位置の同定、および立体配座の決定手法の開発を目指している。このメチレン間NOEの観測は、従来の均一13C標識試料では、同一メチレン残基内のNOEが高強度に観測されるために、観測が困難であるが、SAIL試料では、メチレン基内のNOEが観測されないため高感度に、メチレン間NOEを観測することが可能となると予想される。本年度は、当初の計画に従い均一13C標識あるいは(2R,3S)[3-13C;3-2H]SAILシステインにより選択標識した2種類の放線菌由来ズブチリジン阻害剤(SSI)蛋白質を調製してメチレン間NOEの観測を試みた。予想通り、従来の均一13C標識試料では同一メチレン基内NOEが観測されメチレン間NOEの観測は事実上不可能であったが、SAILシステイン標識試料では明瞭にメチレン間NOEを観測することに成功した。この際、スペクトルの質が良好であり、当初予定していた立体配座の解析のみならず本手法を用いてS-S結合の異性化現象の解析にも応用出来る見込みも出てきた。そのため、解析対象をSSI蛋白質から、S-S結合の異性化現象の存在が知られているウシ由来トリプシン阻害剤(BPTI)蛋白質に変更した。BPTIタンパク質はCys14-Cys38,Cys30-Cys51、Cys5-Cys55の3本のSAS結合を形成する。(2R,3RS)[3^<-13>C;3,3^<-2>H_2]システインを取り込ませたBPTI蛋白質を調製しNOE測定を実施した結果、Cys5-Cys55およびCys30-Cys51間のS-S結合において、立体配座を反映した強度パターンを持つ複数のNOEが観測された。この結果は、S-S結合の位置を決めるのみならず、その立体配座を決めることも出来ることを示している。さらに、特筆すべき点は、Cys14-Cys38間のS-S結合においては、同結合の異性化を示す化学交換シグナルの検出に成功した。この結果は、S-S結合の異性化現象を捉えることが出来る新しい手法開発につながることが期待される。
|