研究概要 |
本課題は、メチレン基のpro-Rあるいはpro-Sの^1Hを^2Hに置き換えた二種類の立体整列同位体標識(Stereo-array isotope labeling : SAIL)システインを同時に取り込ませた蛋白質を利用して、S-SをはさんだHβ^s(i)-Hβ^s(j)間,Hβ^s(i)-Hβ^r(j)間,Hβ^r(i)-Hβ^s(j)間,Hβ^r(i)-Hβ^r(j)間の4つのNOEシグナルをNMRにより検出してS-S結合の位置を同定し、さらにそれらの相対強度からS-S結合の立体配座を決定する手法の開発を目指すものである。本年度は、3つのS-S結合を含む分子量6.5kDaのウシ膵臓由来トリプシン阻害剤(Bovine pancreas trypsin inhibitor : BPTI)蛋白質に対して、SAIL、システインを取り込ませた重水素化試料および均一^<13>C標識システインを取り込ませた従来型の非重水素化試料を調製し、両者のNMRスペクトルを比較した。その結果、SAILシステイン標識試料は均一標識試料と比較して、ジェミナルNOEを含む不要なNOEシグナルとの縮重がなくなり、S-SをはさんだHβ-Hβ間NOEの観測が格段に容易となった。さらにSAILシステイン標識タンパク質では周囲のプロトンの重水素化によりスピン拡散現象が抑えられ、NOE強度が実際の水素原子間距離を正しく反映し、均一標識試料では不可能であったNOEに基づく正確なプロトン間距離情報の抽出に成功した。本手法の確立は、既存のペプチド分析などと比較して、解析試料を分解せずにS-S結合の位置を決定し、さらに従来不可能であったS-S結合の立体配座情報を得ることを可能とする。この事はS-S結合タンパク質の構造、機能解析に大きく貢献すると期待される。
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