ボルト(vault)は3種類の蛋白質と1種類のRNAによって構成されており、分子量約1000万という巨大なRNA-蛋白質複合体である。私たちはラット肝臓由来ボルトを生体内に存在するままの状態で結晶化し、3.5Å分解能のボルトの殻構造(MVP)を決定した。その構造から脂質ラフトに局在する膜タンパク質stomatinに構造の類似性が見られ、それは自然免疫反応の過程でボルトが脂質ラフトに集積されるという報告と一致していた。私たちはそれらの知見をさらに深めるために、さらに高分解能で全体構造を決定することを目的とした。 高分解能でのボルトの全体構造を決定においては、結晶化条件や結晶凍結条件を再検討する必要があり、大量のサンプルを必要とする。現在の様にラット肝臓から天然のボルトを精製するという方法では困難であるため、外殻を形成しているサブユニットMVPの昆虫細胞-バキュロウイルス発現系を構築することにした。MVPを発現、精製し、電子顕微鏡を用いてその粒子を観察したところ、組換え体MVPは天然のボルトと同様にラグビーボールのような構造を形成していた。この精製したサンプルを用いて結晶化したところ、天然のボルトと同じ条件で、同様の結晶が得られている。さらに結晶化条件を再検討することにより、良質の結晶が得られており、SPring-8のビームラインBL44XUにおいて、最高で2.9Å分解能の回折点を確認することができた。これらの結果は、今後、高分解能でボルトの全体構造を解析し、ボルトの生体内における機能を解明する上で重要な足がかりになると期待される。
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