研究概要 |
近年,組織での力学シグナル研究が進むとともに,筋細胞や上皮細胞など多様な細胞は,周囲の環境からもたらされる力を感知して,様々な細胞機能のシグナル伝達を行うことが明らかとなってきている.これら力学シグナルは心臓や骨などの器官形成など発生過程において重要であるが,細胞が力学情報をシグナルとして伝搬するメカニズムの多くは依然として不明である.最近になって,メカノセンサー,メカノトランスデューサーと呼ばれる力学シグナルを感知するタンパク質が報告されるようになってきた.本研究では"張力"を感知するメカノトランスデューサーとして見いだされたαカテニンがどのように張力という力学情報を,分子認識という生化学的情報へと変換して下流にシグナル伝達を伝達するか,を解明することを目的としている. 当該年度において,αカテニンとビンキュリンとの複合体およびビンキュリンとの結合が自己阻害された阻害状態のαカテニンについて,得られた結晶を用いたX線回折実験の結果,いずれの立体構造についても決定することに成功した.さらに決定した立体構造と機能相関を調べるため,各種変異体を作製してin vitroプルダウンアッセイによってビンキュリンとの結合能を評価した結果,張力の非存在下でもビンキュリンと相互作用する張力非感受性変異体を新たに見いだした.また共同研究によって,これら変異体では実際の細胞内においても張力非依存的に,細胞側面に形成された接着構造体アドヘレンスジャンクションへとビンキュリン分子をリクルートすることを見いだした.加えてαカテニンのビンキュリン結合領域は,構造的に不安定であり,張力刺激によって立体構造変化しやすいことを示唆するデータを得た.以上の結果から,細胞接着構造直下に働く張力によって構造変化したαカテニンと,ビンキュリンとの相互作用の制御機構モデルを確立できた.
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