転写を抑制する補因子SHARP (SMRT/HDAC associated repressor protein)は、C末端にあるSPOCドメインにおいてSMRT (silencing mediator of retinoic and thyroid hormone receptors : HDACと直接結合する補抑制因子)と直接結合してHDAC (histone deacetylase)をリクルートし、転写を抑制する。またSHARPはRRMドメインによってmRNA様nc(ノンコーディング)RNAであるSRA (steroid hormone RNA activator)に直接結合して、SRAの転写活性化を抑制すると考えられている。 本研究ではSHARPによる転写抑制の分子レベルでの機構を考察するため、SPOCドメインとSMRT複合体の立体構造解析とその相互作用解析を行った。大腸菌の大量発現系により調製したSHARPのSPOCドメインと化学合成によるSMRTペプチドを用いて複合体試料を調製し、多次元NMR法により構造情報の解析を行い、立体構造を決定した。その結果、SPOCドメインは塩基性に富んだ分子表面でリン酸化されたSMRTのC末端を分子認識して結合していることが明らかとなった。さらにSMRTペプチドも多次元NMRにより信頼性の高い解析を行うことを目的に、大腸菌の発現系を用いて安定同位体を取り込ませることで多次元NMR解析に供することのできるペプチドの調製を試みた。実際、収量は少ないものの、CKIIのキナーゼドメインとキメラ蛋白質として発現させることで、リン酸化された同位体ラベルSMRTペプチドを得て、NMRによりSPOCドメインと結合することを確認した。
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