研究概要 |
真核生物の転写装置である転写開始複合体は、本体であるRNAポリメラーゼIIと補助的役割を果たす5つの基本転写因子から構成される。私はこれまで、ヒト基本転写因子TFIIEの機能上重要なドメイン(TFIIEαのコアドメイン、TFIIEαの酸性ドメイン、TFIIEβのコアドメイン)の立体構造を核磁気共鳴(NMR)法により決定し、機能との相関を明らかにしてきた。本研究では各ドメインのインタクトなTFIIEαβ複合体中での構造、および運動性を解析することにより、完全長複合体の立体構造を解明することを目的とした。 最初に、安定同位体標識試料を調製した。昨年度実施した大腸菌の生細胞、および無細胞の発現検討から、高発現であった生細胞での共発現系を利用して、^<13>C,^<15>Nの二重安定同位体標識、および^2H(100%),^<13>C,^<15>Nの三重安定同位体標識したヒトTFIIEαβ複合体を大量調製した。次に、昨年度決定した最適条件で種々の多次元NMR測定を行った。二次元^<15>N,^1H-TROSYスペクトルで観測された大部分のシグナルを帰属し、安定な構造形成を示す分散したシグナルは、ほぼ全て帰属した。得られた複合体の化学シフトと、これまでに単離して構造決定した3つのドメインの同一条件下での化学シフトとの比較から、各ドメイン構造は完全長複合体においてもほぼ同じ構造で独立して存在していることを明らかにした。また、主鎖^<15>N核の緩和解析から、広範囲に渡る天然変性領域を特定した。完全長複合体の立体構造を決定すべく、NOE(核オーバーハウザー効果)シグナルの測定を行った。酸性ドメインを含むTFIIEαのC末半領域について水素原子間距離制限情報等を収集後、立体構造を計算し初期構造を得た。現在、精密化を進めている。
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