核内受容体COUP-TFの錐体視細胞で発現するオプシン遺伝子発現制御においてエピジェネティックな制御が寄与しているかどうかを明らかにする事が本研究の目的であった。本年度はまず、ヒト網膜芽細胞腫由来の細胞株を用いてオプシン遺伝子プロモーター領域におけるヒストンの修飾状態をクロマチン免疫沈降法により調べてみたところ、内在性COUP-TFの発現を変化させるとオプシン遺伝子の発現量の変化は見られるがヒストンのアセチル化、メチル化状態に大きな変化は見いだせなかった。ヒト赤オプシン(ROP)遺伝子については核内受容体TRb2の寄与が知られているがその作用機序については全く分かっておらず、しかしながらCOUP-TFはTRb2に作用する可能性が考えられたので、まずTRb2のROP遺伝子上の作用領域を検討した。その結果、TRb2はROP遺伝子のプロモーター、及びexon/intron領域に作用する事を見いだし、さらにCOUP-TFはTRb2によるヒトROPの転写活性化を抑制する事を見いだした。興味深い事に、ヒトROP遺伝子のマウス相同性遺伝子M-opsinのTRb2によるプロモーター活性化に対してCOUP-TFは相乗的に活性化する事を見いだした。この結果は、COUP-TFIIをマウス網膜に強制発現させるとM-opsin陽性錐体視細胞が増加した事と一致する。このプロモーター領域内にはヒト、マーモセットなど哺乳類ではCpGサイトが存在するがマウス、ラットげっ歯類では存在せず、DNAメチル化状態とCOUP-TFによる作用機序の違いが示唆された。今後は、TRb2、COUP-TF、オプシン遺伝子プロモーターとの分子間相互作用、そしてプロモーター上のDNAメチル化状態の違いがTRb2、COUP-TFの相互作用をどのように変化させるのかなどを明らかにしたいと考えている。
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