研究概要 |
哺乳類細胞が物理化学ストレスをどのように受容し、どのように細胞内情報伝達を開始して細胞応答を引き起こすのかは生物学的にも医学的にも重要な難問題である。本研究では、ストレスによるMAPKシグナル経路活性化の時間空間的パターンを明らかにして、さらに、これを指標に未知のストレス受容分子を探索することを目的とする。まず、生きた細胞内でストレスに依存してMAP3K活性化が細胞内のどこから開始されるのかを解析した。細胞膜、細胞質、核内の3ヵ所にMAP3K活性可視化プローブを局在化させた各細胞において、浸透圧刺激は細胞膜でのシグナルを引き起こす一方、紫外線やタンパク合成阻害ストレスの場合、細胞質からシグナルが生じることが明らかになった。細胞表面の受容体からのシグナルは細胞膜からシグナルを生じる場合と、細胞膜と細胞質の両方からシグナルが出る場合の少なくとも2つのパターンがあることも明らかになった。次に、上流因子を同定するためのhi-throughput測定系の構築を行った。特に、紫外線などは上流因子が不明である点に着目し、恒常的にプローブを細胞質に発現するHEK293細胞を樹立し、実際に実験系が機能することを、顕微鏡下でストレス応答シグナルを検出して確認した。この細胞を96孔のプレート上で培養し、プレートリーダー上で蛍光測定を行うことに成功した。また、独立に、MAP3KのRNAi阻害実験を行い、TNF-alphaによる細胞質のストレス応答MAP3K活性化はTAK1に依存することも明らかにした。 Hi-throughput測定に耐えるためには今後も最適化が必要であるものの、生きた細胞におけるストレス応答経路活性化の実時間測定はまだ世界でも類を見ない成果であり、一部を論文として発表した(MCB 2009, Tomida et al.)。
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