癌細胞は、腫瘍組織に形成される細胞外マトリックスとの相互作用を通して、浸潤能を獲得し、転移する。研究代表者は、これまでに、癌細胞の細胞膜近傍における細胞外マトリックスのリモデリングが、癌細胞の浸潤・転移能において重要な役割を担っていることを見出した。特に、細胞外マトリックスの主要構成分子であるヒアルロン酸が、分解酵素の作用を受けて低分子化することが鍵であり、このようにして生じた低分子量ヒアルロン酸が、癌浸潤促進作用を有することをみいだした。本研究は、細胞外マトリックスのリモデリングを、癌細胞が膜レセプターを介して分子認識し、そして、細胞内へとシグナルを伝達する機構の解明をおこなうことを目的とする。タンパク質構造解析手法と、細胞イメージングを総合的に適用することにより、その構造的基盤を明らかにする。本研究により、細胞膜を介した接着シグナル伝達機構解明の道を拓くことを目指す。平成21年度は、上記目的のため、独自知見に基づいて、次の事柄をおこなった。 癌細胞に発現する細胞外マトリックスレセプターについて、タンパク質精製をおこない、構造解析に供した。また、細胞外マトリックスの主要構成分子であるヒアルロン酸について、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscopy)観察により、濃度と分子量により構造を変化させることを見出した。さらに、そのレセプターであるCD44と会合する様を捉えることができた。
|