がん細胞は、腫瘍組織に形成される細胞外マトリックスとの相互作用を通して、浸潤能を獲得し、転移する。本研究は、細胞外マトリックスのリモデリングを、がん細胞が膜レセプターを介して分子認識し、そして、細胞膜を介して細胞の内へとシグナルを伝達する機構の解明をおこなうことを目的とする。平成22年度においては、細胞膜におけるレセプター動態に焦点を当て、これまでの独自知見に基づいて次の研究をおこなった。 がん細胞に発現し、浸潤・転移に関与する細胞外マトリックスレセプターCD44が、膜ミクロドメイン(脂質ラフト)に局在し、コレステロールの除去による生体膜の微細構造変化が、膜におけるCD44の局在と機能を変化させることを明らかにした。さらに、スタチン系コレステロール合成阻害薬が同様の効果を示し、細胞外マトリックスのリモデリングによるがん細胞の浸潤性亢進を抑制することを見出した。また、培養がん細胞に対して、膜レセプターCD44に対するプローブの投与をおこない、大気圧走査型電子顕微鏡(atmospheric scanning electron microscope)による水溶液中での高分解能電子顕微鏡イメージングにより、膜レセプターの分布解析をおこなった。 本結果から、がん細胞による細胞外マトリックスリモデリング受容の基盤となる膜構造が明らかになった。これは、がん浸潤・転移の分子機構の解明を通じて、その予防・治療法の開発に寄与するものである。
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