がん細胞は、腫瘍細胞外マトリックスとの相互作用を通して浸潤能を獲得し、転移する。本研究は、細胞外マトリックスのリモデリングを、がん細胞が膜レセプターを介して分子認識し、そして、細胞膜を介して細胞の内へとシグナルを伝達する機構の解明をおこなうことを目的とした。 細胞外マトリックスレセプターCD44は、がん細胞に発現し、浸潤・転移に密接に関与する。これまでに、CD44が膜ミクロドメイン(脂質ラフト)に局在し、コレステロールの除去による生体膜の微細構造変化が、膜におけるCD44の局在と機能を変化させることを明らかにした。さらに、スタチン系コレステロール合成阻害薬が同様の効果を示し、細胞外マトリックスのリモデリングによるがん細胞の浸潤性亢進を抑制することを見出した。平成23年度においては、様々な培養がん細胞について解析を進め、細胞膜微細構造が、浸潤に関わる細胞外マトリックスレセプターの機能と細胞動態を制御することを見出した。また、培養がん細胞に対して、膜レセプターCD44に対するプローブの投与をおこない、大気圧走査型電子顕微鏡(atmospheric scanning electron microscope)による水溶液中での高分解能電子顕微鏡イメージングにより、膜レセプターの分布解析を進めた。本研究により、がん細胞による細胞外マトリックスリモデリング受容の基盤となる膜構造が明らかになった。
|