2型糖尿病において、高血糖状態の慢性化はインスリン分泌抑制を伴う糖毒性を引き起こし、病状が重篤化する。しかし、糖毒性とそれに伴うインスリン分泌抑制を制御する細胞内情報伝達機構はほとんど研究されていない。そこで我々は、プロテインキナーゼ(PK)を網羅的に検出できる抗体(マルチPK抗体)を用い、糖尿病のモデル細胞であるINS-1細胞において、インスリン分泌量とリンクして発現量が変動するPKの検出を試みた。その結果、糖毒性状態でのインスリン分泌量の減少に伴って発現量が顕著に減少する63kDaのPKを見出した。このPKは、等電点が約4.6であり、臭化シアン分解とSDS-PAGEを組み合わせた二次元泳動でサブドメインVIBを含む断片が18kDaであったことからCaMKIVであると推測された。抗CaMKIV抗体を用いたウエスタンブロッティングにおいて、CaMKIVの発現量は高グルコース培地での糖毒性状態で減少したが、通常グルコース濃度に戻すと回復した。In vitroでCaMKIVは高グルコース条件で培養した細胞の抽出液によりカルシウム依存的に分解され、この分解はカルパイン阻害剤により完全に阻害された。また、INS-1細胞に恒常的活性型CaMKIVを導入することで、インスリンプロモーター活性が4倍上昇した。さらに、糖尿病モデルラットであるOLETFにおいても、糖毒性状態でCaMKIVの発現量が減少していた。これらの結果から、CaMKIVはインスリン分泌量を正に制御しており、糖毒性状態でのCaMKIVの発現量の減少はカルパインでの分解によるものであると示唆される。
|