研究概要 |
我々は概日時計の基本的性質の一つである温度補償性(周期が温度に依存せず一定)が、caseinkinase Iε/δ(CKIε/δ)によるPERタンパク質のリン酸化反応が温度に非依存であることに起因することを明らかにした(Isoj ima, Nakaj ima, Ukai et al., 2009)。この成果は、概日時計の基本的性質が概日時計ネットワークを構成する少数の分子の生化学的性質に依存していることを示唆する結果である。今年度はこの成果を発展させることを目的に、1)酵素―基質相互作用の解析、2)時計タンパク質PERIOD, CRYPTOCHROMEの大量発現系の構築を行った 1)酵素―基質相互作用の解析 哺乳類時計タンパク質PERIOD2(PER2)のCKIε/δによるリン酸化部位を元に設計したペプチド(PER2-peptide)を基質としたCKIε/δリン酸化反応は温度に非依存であった(Isojima, Nakajima, Ukai et al., 2009)。この酵素反応の温度非依存性の原子レベルのメカニズムを明らかにするために、蛍光相互相関法によりPER2-peptideとCKIε/δの相互作用の測定を試みた。その結果、CKIε/δとPER2-peptideの相互作用は、PER2-peptideのリン酸化が進むにつれて強くなることが分かった。このCKIε/δとPER2-peptideとの相互作用の性質は、一般的な酵素―基質相互作用とは異なることから、酵素反応の温度非依存性がPER2-peptideとCKIε/δの相互作用の特殊性に起因することを示唆するものである。 2)時計タンパク質の大量発現系の構築 哺乳類概日時計タンパク質PER、CRYPTOCHROME(CRY)の大腸菌発現系の構築を試みた。PER、CRYいずれも大腸菌細胞内での発現、可溶性画分への蓄積を確認し、CRYに関しては精製することに成功した。PERは可溶性画分への蓄積を確認したものの、特定の構造をとっておらず、aggregationした状態で可溶性画分に蓄積された。PERは単独では特定の構造を足らないことが予測されていることから、構造の維持には他のタンパク質との複合体形成が必須であると考え、現在、他の時計タンパク質との共発現系の構築を行っている。
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