糖鎖付加は多細胞生物におけるタンパク質の最もユビキタスな翻訳後修飾であり、細胞表面・細胞外に局在するタンパク質のほとんどは糖鎖付加を受けて初めて完成する。糖鎖の機能は多様であり、「糖鎖と糖鎖認識タンパク質の相互作用を介した生体機能の制御」はその主要なものとして挙げられる。糖鎖認識に基づく生体制御機構の破綻は疾患につながるため、かかる制御機構の研究は疾病の診断や治療に結びつくと期待される。 申請者は糖鎖と糖鎖認識タンパク質を介した生体制御機構の解明を目指し、新規の糖鎖認識タンパク質の探索を進めてきた。特にシアル酸と呼ばれる一群の酸性糖に注目し、シアル酸を認識するタンパク質シグレックを多数発見した。本研究では細胞の活性化シグナル伝達に関与すると考えられるシグレックの高次機能の解明を目指す。特に癌細胞と免疫細胞の相互作用に注目し、Siglec-15がかかる相互作用において果たす役割を解析する。 平成21年度は(1) Siglec-15のリガンドを発現する細胞の探索、(2) 癌細胞株とマクロファージの共培養系の確立、(3) Siglec-15が癌細胞-マクロファージ相互作用に及ぼす影響の検討を行った。具体的にはSiglec-15のリガンドとなるシアリルTn構造を高発現する肺癌細胞及び対照細胞を入手し、これらとSiglec-15を発現するヒト単球系細胞株または対照細胞を共培養し、産生される可溶性因子の遺伝子発現とタンパク質発現を評価した。なおこの過程で、単球系細胞をマクロファージ分化させると、プロテアーゼ作用によりSigle-15が切断されることが判明した。これらを通じ、次年度以降の研究展開を可能とする実験基盤を築いた。
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