糖鎖付加は多細胞生物におけるタンパク質の最もユビキタスな翻訳後修飾であり、細胞表面・細胞外に局在するタンパク質のほとんどは糖鎖付加を受ける。「糖鎖と糖鎖認識タンパク質の相互作用を介した生体機能の制御」は糖鎖の多様な機能の一翼を担う。糖鎖認識に基づく生体制御機構の破綻は疾患につながるため、このような機構の研究は疾病の診断や治療に結びつくと期待される。 申請者は糖鎖認識に基づく生体制御機構の未知なる部分の解明を目指し、シアル酸と呼ばれる一群の酸性糖を認識するタンパク質であるシグレックを多数発見した。本研究では、細胞の活性化シグナル伝達に関与するシグレックの高次機能の解明を目指す。特に癌細胞と免疫細胞の相互作用に注目し、Siglec-15がこのような相互作用において果たす役割を解析する。 平成22年度は計画実施計画に従って(1)Siglec-15が癌細胞-マクロファージ相互作用に及ぼす影響の検討、(2)癌細胞-マクロファージ相互作用の糖鎖による制御の検討、(3)癌細胞由来のSiglec-15リガンドの同定を進めた。その結果、Siglec-15のリガンドを高発現する肺癌細胞とSiglec-15を発現する単球系細胞株を共培養すると、メタロプロテアーゼや成長因子の発現が誘導されることなどが判明した。またこの効果はムチンを発現する肺癌細胞においてのみ認められ、シアル酸に完全には依存しないことが判明した。これらの結果は癌細胞上のムチンと免疫細胞上のSiglec-15の相互作用が癌微小環境に影響を及ぼすことを強く示唆するものであり、来年度(最終年度)の研究につながる貴重な知見が得られた。
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