本研究では申請者がクローニングした、免疫細胞活性化に関わる膜タンパク質であるSiglec-15に関し、この分子が癌細胞と免疫細胞の相互作用において果たす役割を解析した。 本年度が本計画の最終年度である。 1.Siglec-15が癌細胞-免疫細胞の相互作用に及ぼす影響の検討 Siglec-15を導入した免疫細胞と、Siglec-15のリガンドとなる糖鎖を発現する癌細胞を共培養し、Siglec-15が癌細胞-免疫細胞の相互作用において癌微小環境に及ぼす影響を検討した。この結果、免疫細胞にSiglec-15を発現し、癌細胞にSiglec-15のリガンドとなる糖鎖を発現した場合にのみ、上皮-間葉転換(EMT)を促進する液性因子であるTGF-βの産生が免疫細胞で特異的に上昇することを見出した。 2.Siglec-15を介するシグナル伝達系の解析 上記の現象の背景となるシグナル伝達経路を解析するため、Siglec-15と会合する分子を解析した。この結果、Siglec-15とアダプタータンパク質DAP12の相互作用が生理的に有意であり、またDAP12と会合するチロシンキナーゼであるSykがこのシグナル伝達経路において鍵となる分子であることを見出した。 一方、変異体を用いた解析により、Siglec-15の細胞質領域に存在するチロシンを含む配列モチーフは上記のシグナル伝達に関与しないことを示唆する結果を得た。 本研究を発展させることにより、将来的にSiglec-15もしくはその下流のシグナル伝達経路の制御を介して癌微小環境を制御し、癌の転移等を抑制する方法の開発に寄与する事ができるものと期待される。
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