実用的な新規抗菌薬の開発を将来的な目標として、本研究ではその材料となる新規抗菌ペプチドの同定を第一目標とする。ペプチドーム解析(組織、細胞に存在するペプチドの網羅的解析)から得られた内在性ペプチド(単なるタンパク質の分解物でなく、プロセシングによって生じるペプチド)群からの新規抗菌ペプチドの探索では、in silicoでの予測などの従来法では実在が予測できなかったペプチドを候補ペプチドとして選定できる利点がある。当該年度では、60種の候補ペプチドから、抗菌活性を指標にスクリーニングを行い、2種の新規抗菌ペプチド(抗菌ペプチド1、2)を同定した。面白いことに、抗菌ペプチド1は、タンパク質として生物活性をもつ、機能タンパク質から生成していた。従来、機能タンパク質から活性ペプチドが生成するとはほとんど考えられていなかったので、抗菌ペプチド1の発見は、活性ペプチドの探索に新たな可能性を示唆する点で重要である。一方、実用化に向け、グラム陽性細菌4種、グラム陰性細菌3種、真菌1種に対する抗菌スペクトルを測定した。抗菌ペプチド1は8種の菌の内6種に対して強い抗菌活性を、抗菌ペプチド2は真菌に対してのみ活性を示した。これらの抗菌ペプチドは赤血球溶血活性を示さないことから、細胞毒性はないと考えられる。また、抗菌ペプチド1はラット脳、下垂体、小腸に実在していた。以上のことから、特に抗菌ペプチド1は新規抗菌薬の材料となる可能性を秘めており、現在、特許出願中である。
|