実用的な新規抗菌薬の開発を将来的な目標として、本研究ではその材料となる新規抗菌ペプチドの同定を第一目標とした。抗菌ペプチドの多くが塩基性アミノ酸を多く含む分泌ペプチドであることに着目して、培養細胞から分泌される塩基性ペプチドを網羅的に同定し、生物種間での保存性などを基準にペプチドを選定、合成し、抗菌活性を指標に活性ペプチドのスクリーニングを行った。その結果、昨年度に新規抗菌ペプチド(AMP-IBP5)を発見した。当該年度は実施計画に従い、実用化に向け抗菌スペクトルを測定した。具体的には、グラム陽性細菌4種、グラム陰性細菌3種、真菌1種に対する抗菌活性を測定した。AMP-IBP5は調べた8種の菌の内6種に対してヒトβ-ディフェンシン2より強い抗菌活性を示した。一方、哺乳類細胞への細胞傷害性は観察されなかった。したがって、新規抗菌薬の材料となる可能性を秘めており、現在、国際特許出願中である。AMP-IBP5は成長因子結合タンパク質であるIGFBP5から生成するペプチドで2個のCys残基が分子内架橋している。しかし、同じファミリータンパク質であるIGFBP4やIGFBP6の対応するCys残基は架橋されていないことから、in silicoでの予測などの従来法では実在が予測できなかったペプチドである。このことからペプチドーム解析(組織、細胞に存在するペプチドの網羅的解析)から得られた内在性ペプチド(単なるタンパク質の分解物でなく、プロセシングによって生じるペプチド)群から新規抗菌ペプチドを探索するという本研究のアプローチの有用性が示された。実際、AMP-IBP5はラット脳、下垂体、小腸に実在するのも確認した。これらの研究成果は国際的な学術誌(Journal of Proteome Research)に報告した。
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