生体分子モーターは、如何にして化学エネルギーを運動エネルギーへと変換するのだろうか?微小管上を走るキネシン1については、二つの加水分解部位を交互に動かしながら、歩行するように微小管上を連続的に運動することが明らかになったが、一方で、Eg5(キネシン5)と呼ばれる紡錘体形成にかかわるモーターは、連続的な運動に加えて、拡散運動、非連続的な運動と、さまざまな運動モードを持つことが明らかになりつつある。本研究では、そのような運動モードの特性がどこから現れるのかを明らかにすることを目的に1分子計測による運動観察と、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)計測による分子内部での構造遷移の検出を行った。まず、キネシン5の二量体形成に関わる茎部から二頭間をつなぐネックリンカーまでの残基を様々な長さにわたってキネシン1に置換したキメラタンパク質を作成し、その運動を確かめた。その結果、野生型キネシン5は低塩強度でほとんどが拡散運動を示すのに対して、茎部およびネックリンカーをキネシン1と置換した場合には多くの分子がキネシン1同様の一方向性の運動を示すように運動を変化させた。この結果はキネシン5の連続的運動能の制御にはネックリンカーと茎部が関わっていることを示唆している。また、ネックリンカーをキネシン1のものと置き換えたもの、および、ネックリンカーの長さや残基に変異を加えたキネシン5のネックリンカーの構造状態を1分子FRET法により観察したところ、キネシン5の連続的運動能は、ネックリンカーと頭部の相互作用により抑制されていると示唆された。これらの結果から、染色体分配に関わるキネシン5が、ネックリンカーと頭部の相互作用を制御することによって必要に応じて運動モードを切り替えているという運動制御メカニズムを明らかにした。
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