生体内のエネルギー変換に重要な役割を持つ蛋白質複合体における電子移動・プロトン移動反応の解明」を念頭に置きつつ、その中の鉄・硫黄クラスター、フラビン分子間の電子移動・プロトン移動反応機構の解明に焦点を絞り研究を実施した。蛋白質環境における鉄・硫黄クラスター、フラビン分子を含む系の電子移動反応に関する理論計算研究は、ほとんど前例がない。したがって、これらの分子を含む蛋白質を適宜モデル蛋白質として研究対象とし、鉄・硫黄クラスター、フラビン分子を含む蛋白質の理論計算系を確立するため、フラビンと鉄硫黄クラスターを含む蛋白質xanthine oxidoreductaseに関する酵素活性に関する研究にとりかかった。この蛋白質は最近から高等動物まで幅広く存在する酵素であり、抗高尿酸血症薬、抗痛風薬としての尿酸生成阻害剤の標的酵素である。通常はNAD+を電子受容体とするxanthine dehydrogenase(XDH)として組織中に存在する。しかし哺乳動物に限って、酸素を電子受容体とするxanthine oxidase(XO)へと活性が変換する。当然、両酵素は同じアミノ酸配列、同じコファクターを持つにもかかわらず、全く異なる酵素活性を持つ。異なる酵素活性は蛋白質中のコファクターの中のフラビン部位の性質がXDHとXOで異なることに起因するため、フラビンの作家還元電位計算を実行するために必要な、立体構造に基づいた蛋白質の初期モデル作りに時間を要した。蛋白質中に含まれるコファクターの部分電荷を決定した。さらに、プロトン移動を伴うフラビンの酸化還元電位についてフラボドキシンをモデル蛋白質として考察を行った。
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