蛋白質のX線結晶構造解析結果を用いて1)酵素acetoacetate decarboxylaseにおける活性部位の塩基性アミノ酸残基(Lys115)の解離度が異常に高い(=pKa値が異常に低い)ことを解明すべく、蛋白質中の全アミノ酸の解離度を適切に求めた上でLys115のpKaを計算した。その結果、Lys115のpKa値が低い理由は、蛋白質中での正電荷間の反発ではなく、むしろ蛋白質環境の疎水性が理由であることを突き止めた。2)神経系制御に関わるチャネル蛋白質ASIC1におけるプロトン結合サイトを特定し、その成果を論文発表した。3)生体内電子伝達系に関わる蛋白質rubredoxinにおける活性部位鉄・硫黄クラスターの関与する電子移動反応を解析した。鉄・硫黄クラスターの酸化還元電位には、配位子であるCysのアミノ酸主鎖のコンフォメーションも重要であることがわかった。4)フラビンと鉄・硫黄クラスターを含む蛋白質xanthine oxidoreductaseに関する酵素活性に関する研究を開始した。この蛋白質は細菌から高等動物まで幅広く存在する酵素であり、抗高尿酸血症薬、抗痛風薬としての尿酸生成阻害剤の標的酵素である。通常はNAD^+を電子受容体とするxanthine dehydrogenase (XDH)として組織中に存在する。しかし哺乳動物に限って、酸素を電子受容体とするxanthine oxidase (XO)へと活性が変換する。両酵素は同じアミノ酸配列、同じコファクターを持つにもかかわらず、全く異なる酵素活性を持ち、フラビン部位の性質がXDHとXOで異なることに起因する。本研究でフラビンの酸化還元電位計算を行った結果、フラビン周辺のアミノ酸422-433からなるループ部のコンフォメーションの違いが、XDHとXOの電位差に最も重要であることが解明できた(論文投稿中)。
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