本年度は平成22年度において構築された過渡回折格子法測定系を使って、Salinibacter sensory rhodopsin Iの反応ダイナミクスを研究した。その結果前年度において存在が明らかになった反応中間体(M_1、M_2、M_3中間体)は部分モル体積が異なり、M_2はM_1から40ml/mol、M_3はさらにM_2から10ml/mol体積が増大していることが明らかになった。またそれらを含めたSrSRIの各中間体のエンタルピーは塩化物イオンの結合に伴い変化することが明らかになり、分子全体の構造エネルギーが小さなイオンの結合によって最大43kJ/mol変化することを発見した。ロドプシンを含めた光受容タンパク質でイオンの結合がエンタルピーに大きな影響を与えることを明らかにしたのはこれが初めてである。一方今回の研究ではSrSRIを界面活性剤に可溶化した条件で実験を行ったが、一般的に界面活性剤中ではロドプシンのような分子はモノマー状態に解離すると考えられている。しかし今回過渡回折格子法によって拡散定数を求めたところ、SrSRIは界面活性剤中でも100分子に及ぶ会合体を形成していることが明らかになり、非常に強い分子間相互作用を有していることが明らかになった。これらの結果については物理化学において重要な雑誌であるJ.Phys.Chem.B誌に論文として掲載された。また前年度はトランスデューサータンパク質との複合体について反応サイクルの遅さから、過渡回折格子法測定が困難であったが、現在レーザーを同期させたシステムの構築にも成功し、SrSRI単体の時とはダイナミクスが異なることを明らかにすることができた。 [研究協力者]名古屋大学・理学研究科・須藤雄気SrSRIおよびタンパク質試料の提供
|