基板支持脂質二重膜(サポーテッド膜)に再構成した回転分子モーターATP合成酵素のプロトン駆動力(脂質二重膜間のpH差と膜電位差)による回転の直接観察に取り組んだ。 サポーテッド膜を支持する基板として新たに、NTA-ポリアクリルアミドを開発した。これを用い、ATP分解により回転する膜中のATP合成酵素の1分子回転観察に成功した。またNTA-ポリアクリルアミド基板上の脂質膜をガラスピペットでパッチすることによって、サブGΩ程度のシールを実現した。しかしながら、ガラスピペットを回転サンプルに押しつけた際に、ATP合成酵素が回転を止めてしまうケースが非常に多いという問題点が明らかになった。また、ピペットが振動しているために、シールの安定性に悪影響がみられた。再現性や歩留まりを上げるには圧力や振動の精密な制御が必要であることが明らかとなった。ガラスピペットを押しつけても回転が止まらなかったATP合成酵素では、電圧に依存して回転速度が変化する様子が観察された。今後は詳細なコントロール実験を行い、電圧応答が真にATP合成酵素の回転挙動を反映しているのかを慎重に検証する。特に、電圧印加時のピペット内外での溶液のフローの影響や、回転プローブであるアミノ基修飾ポリスチレンビーズ表面の電荷の影響を検証する必要がある。
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