生物の発生分化は時間的、空間的制御を受けた遺伝子の発現パターンにより決定される。遺伝子発現のパターンは転写因子のネットワークにより構築され、ピストンを始めとするクロマチン構造によって固定化されると考えられている。しかし、発生分化過程のクロマチン構造の動的変動の機構と役割については多くが不明である。我々はヒストンシャペロンであるTemplate Activating Factor (TAF)-Iに着目し、発生過程におけるクロマチン構造の果たす役割を検討することとした。そこでTAF-Iノックアウト(KO)マウスを作製したところ、重度な貧血と未熟な血管形成が見られ、胎生12.5日目までに致死であった。10.5日胚におけるTAF-Iの発現パターンを間接蛍光抗体法により検討したところ、TAF-Iはすべての組織で発現していた。ほぼすべての細胞ではTAF-Iは細胞核に局在していたが、有核赤血球では細胞質に局在していた。このことからTAF-Iは血球および血管の発生に重要な役割を持つことが示唆された。一方で、TAF-I KO胚では野生型胚に比べ胎生8日目から徐々に発生が遅れていることが観察された。TAF-I KO胚の発生の遅れは一様ではなく、10日目から遅れ始める個体も観察され、様々であることが明らかとなった。この現象は胚発生にともなうクロマチン構造を介した遺伝子発現パターンの固定化が不完全であるためと考えている。TAF-I KO胚が致死となる原因を明らかとするため、TAF-I KO MEF (mouse embryonic fibroblast)を作製した。野生型に比べTAF-I KO MEFの細胞増殖速度は低下していた。現在は、胚およびMEFを用いた網羅的遺伝子発現解析を予定しており、本解析によりヒストンシャペロンによる発生分化過程のクロマチン構造制御機構が明らかになると考えている。
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