分裂期における染色体凝縮は正確な染色体分配のために不可欠であり、コンデンシン複合体が染色体に結合することで成し遂げられる。しかし、分裂期終了時の染色体「脱」凝縮の制御機構やその役割についてはまったく理解が進んでいない。そこで、本研究ではコンデンシンが染色体から離れる仕組みを解析することによって、染色体「脱」凝縮の制御機構とその生理学的意義の理解を目的とする。 21年度はコンデンシン複合体の染色体離脱に必要な因子を探索するため、分裂酵母を用いた遺伝学的、細胞生物学的な解析を行った。その結果、分裂期特異的リン酸化酵素であるオーロラキナーゼによるコンデンシンのリン酸化と脱リン酸化が、コンデンシンの染色体結合および離脱に密接に関わることが明らかになってきた。実際、コンデンシン複合体の一つのサブユニットであるCnd2タンパク質を非リン酸化型に変異させた分裂酵母細胞では、コンデンシンが染色体に安定に結合できなくなり、染色体の分配異常が観察された。逆に、Cnd2タンパク質を不可逆的なリン酸化型に変異させると、分裂期を過ぎてもコンデンシンが染色体上に局在し続けるようになった。生細胞を用いた詳細な顕微鏡観察の結果、この変異体の染色体は分裂期を過ぎても凝縮状態を保っている様子であった。 以上の結果より、分裂期特異的リン酸化酵素によるコンデンシンのリン酸化が分裂期終了時に解除され、脱リン酸化状態になることがコンデンシンの染色体離脱に必要であることが明らかになった。また、分裂期進入時の染色体凝縮だけでなく、分裂期終了時の染色体「脱」凝縮にも厳密な制御機構が存在することも示唆された。分裂期終了時にコンデンシンを脱リン酸化する酵素群やその制御因子の特定を通じて、染色体「脱」凝縮という現象がどのように生命の維持に寄与しているのかという疑問に今後迫りたい。
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