本研究では、出芽酵母のHMGBファミリータンパク質の1つHmo1が、リボソームタンパク質(RP ; ribosomal protein)遺伝子のプロモーターに特異的に結合し、その転写制御に関わること、HMO1遺伝子破壊によってRP遺伝子群の転写開始点が上流側にシフトすること、などの知見に基づき、Hmo1のRP遺伝子プロモーター上における機能を多角的な解析により分子レベルで解明することを目指した。その中で、分解能を可能な限り高めたChIP解析を駆使することにより、(1)Hmo1のRP遺伝子プロモーター上における結合位置を正確に特定すると共に、(2)ヌクレオソームがHmo1と排他的な領域に結合すること、(3)RNAポリメラーゼや基本転写因子群から構成される転写開始前複合体(PIC ; pre-initiation complex)がHmo1とヌクレオソニムの中間に位置するコアプロモー領域に結合すること、などを明らかにした。加えて(4)HMO1遺伝子破壊によって、PICの結合位置が、本来Hmo1が結合している領域へとシフトし、このことがHMO1遺伝子破壊株における転写開始点のシフトの原因となっていることも明らかとなった。これらの発見に基づき申請者は、Hmo1とヌクレオソームが、それぞれコアプロモーターの5'側、及び3'側に結合し、コアプロモーター以外の領域への非特異的なPICの形成を抑制することにより、正しい位置からの転写を促進するという新しい転写開始位置決定の制御機構のモデルを提示するに至った。このような機構は特異的なシスートランスエレメントの相互作用に基づく転写開始位置決定とは概念的に異なるものであり、転写制御の分野における全く新しい制御機構として学術的価値の高いものと考えている。
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