piRNAは25から29塩基長の1本鎖RNAで、レトロトランスポゾンのサイレンシングに必須な因子である。しかし、その生合成に関与する蛋白質や分子機構は不明な点が多い。ショウジョウバエ卵巣の体細胞由来培養細胞(OSC)では、piRNAが生合成され、Piwiに結合し、レトロトランスポゾンの発現を抑制するという一連の経路が保存されている。そこでOSCを用いて、RNAi法による生合成関連遺伝子のスクリーニングを行った。その結果、RNAヘリカーゼドメインをもつarmitage (armi)がpiRNA生合成に必須であることを見いだした。更に、独自に作製したArmi抗体を用いて解析を進めることにより、Yb body(生殖幹細胞維持に必須な細胞質内顆粒状構造体)にArmi蛋白質が局在すること、さらにはArmiのYb bodyへの局在にはYb蛋白質が必要であることを明らかにした。また、Armi複合体にはYb、Piwi、そしてpiRNA前駆体様RNAが含まれる事も判明した。OSCにてarmiあるいはybをノックダウンした条件下では、PiwiはpiRNAと結合しておらず、また、核へ移行しなくなる。piRNA生合成に関わると以前報告されたヌクレアーゼ様遺伝子zucchiniをノックダウンした条件下では、Armi複合体はpiRNA前駆体様RNAを含むものの、成熟型piRNAはPiwiに結合しない。また、Piwiの核への移行は阻害されており、PiwiはYb bodyに繋留されていた。従って、Yb bodyはprimary piRNA生合成の場であり、しかもpiRNAと結合したPiwiのみを核へ輸送させるチェックポイントであるといえる。以上の知見は、piRNA生合成機構、すなわちレトロトランスポゾン抑制機構に、多くの蛋白質因子が関与することを示したという点において重要である。
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