熱ショック応答は、あらゆる細胞に見られる普遍的なストレス応答反応であり、熱ショック転写因子(HSF)は、この応答に関与する熱ショックタンパク質群(HSP)の発現を制御する転写調節タンパク質である。HSFはHSPプロモーターのHSEに三量体で結合する。HSEには三量体が一つ結合するタイプ(HSE-type I)と2つ以上結合するタイプ(HSE-type II)がある。酵母Hsf1では、三量体形成と、ストレスに伴うリン酸化が、HSE-type Iを介した転写活性化に必須である。ところが、HSE-type IIを介した活性化には、三量体形成領域もリン酸化も不要である。一方、真核生物の転写には、コアクチベーターとして機能するメディエーター、SAGA(HAT複合体)、およびSwi/Snf(ヒストンリモデリング因子)などが必要である。HSEタイプ特異的な転写調節にどの複合体が関連するのかを明らかにするため、それぞれの複合体の構成タンパクをコードするSIN4(メディエーター)、SPT3(SAGA)、SNF2(Swi/Snf)の破壊株を作成し、HSP遺伝子のmRNAを測定した。 SIH4破壊株では、HSE-type IIを持つHSP遺伝子の転写が顕著に低下したが、SPT3やSNF2の破壊株では、転写活性化は正常であった。またChIP法を用いた解析より、HSE-type IIを持つ遺伝子のみにSin4、Srb4、Srb5などのメディエーター構成タンパクがリクルートされることが明らかになった。 これらの結果より、HSE配列に応じてメディエーターの必要性が変化し、遺伝子特異的な転写調節が起こると示唆された。
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