平成22年度に予定していた「遺伝子増幅と遺伝子進化の関係」にまず着手した。当初はフレームシフトにより活性が低下したlys2遺伝子を変異検出マーカーとする考えであったが、これではフレームを戻す復帰変異しか検出できない。そこでタンパク質分解を誘導できるタグに注目し、その分解を阻害できる多様な変異を検出する方法を考案した。まず薬剤Shield1により安定化できるFKBP12タンパク質変異体の系を試みたが、出芽酵母ではShield1非存在下でも効率良く分解されないことが判明した。これは変異導入以前に高バックグラウンドが現れることを意味し深刻な問題である。そこで現在Auxin依存的分解ドメイン(AID)をカナマイシン等の耐性遺伝子に融合させ検討している。使用している酵母株では一般的な50μMよりも高濃度のAuxinが分解に必要であることが判明しつつある。 平成23年度に予定していた「増幅を起こす細胞種と起こさない細胞種の相違」については多様な細胞種を用いて増幅選択を行う時間が不足したことを考慮し、増幅の成否を担う分子機構の遺伝学的解析を行った。動物細胞の増幅初期に見られる構造を模した二組の逆位反復配列を出芽酵母染色体に構築し、数種類の遺伝子欠失株を作製して増幅頻度を調べた。rad18、rad27、mus81では増幅頻度が約10、55、80倍に増加し、これらが上記構造で停滞する複製フォークの維持や再生に関与していることが示唆された。さらに二次元電気泳動によりその構造での複製フォーク進行を調べたところ、フォーク進行阻害が検出できた。一方、rad9、ddc1では39、74%に増幅頻度が低下した。本来、染色体異常を防ぐ役目をするチェックポイント機構が増幅活性化に必要である結果は意外であるが、これらがフォーク進行阻害を感知することが増幅を引き起こす誤った修復に繋がっていると考えられた。
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