転写機構は多段階の周期的なステップを経て厳密な制御がなされていると考えられる。我々は、この分子機構解明のため、核内受容体の転写抑制活性に着目した。生殖腺の分化に必至な転写因子Ad4BPが翻訳後修飾であるSUMO化依存的に転写抑制を受けることから、このAd4BPのSUMO化に特異的に結合する因子の精製を試みた。その結果SUMO化特異的な相互作用因子として、クロマチンリモデリング活性を有すると推測されるARIP4を同定することができた。本研究課題では、ARIP4の転写制御機構の分子メカニズムを明らかにするために、ARIP4が細胞内で形成する複合体の同定と機能解析、またその複合体の構成因子とARIP4の分子レベルでの動態観察を行った。ARIP4複合体を細胞核抽出液より精製すると特異的に約60kDaのタンパク質p60が結合することが見出された。この因子はARIP4のATPase活性を促進すると共に、転写抑制活性を促進した。この結果はp60が機能的にARIP4の複合体構成因子であることを意味している。さらに、二つの因子が細胞内で近傍に存在するときに蛍光を発するin situ PLAシステムを用い、内在のARIP4とp60が細胞内で複合体を形成しているかどうかを可視化できるか試みた。その結果、ARIP4とp60は正常な状態では核で主に複合体を形成しているが、一部細胞質においても複合体を形成する可能性が示された。これらの成果はARIP4複合体形成機構とその転写制御機構への影響に付いてクロマチンの動態を含め解析をすすめる上で重要な知見であり、今後のクロマチンレベルでの新規転写調節機構の解明につながると考えている。
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