Notchシグナル伝達経路は、多細胞真核生物において保存されたシグナル伝達経路のひとつであり、個体発生において重要な役割を果たしている。申請者らは、NotchリガンドのひとつであるJaggedlbの個体レベルでの機能を明らかにすることを目的とし、ゼブラフィッシュ胚においてJaggedlbの機能阻害をおこなった。その結果、Jaggedlb機能阻害胚では、側線原基内の細胞数が減少すること、および、細胞のアポトーシスが増加することを見出した。これに対して、Notchの機能阻害では側線原基内における細胞数の減少とアポトーシスの増加はみられなかったことから、Jaggedlbの抗アポトーシスにおける機能はNotch非依存的であると考えられた。しかしながら、実際にJaggedlbがどのようにしてアポトーシスを抑制しているのかは不明であった。そこで、抗アポトーシスにおけるJaggedlbの機能を個体レベル、分子レベルの両面で明らかにすることを本研究の目的として解析をおこなった。まず、jaggedlb機能阻害胚の側線原基において異常が生じる過程を経時的撮影によって詳細に観察した。その結果、正常胚では側線原基はまとまった細胞集団として移動するのに対して、jaggedlb機能阻害胚では移動中の側線原基から徐々に脱落する細胞がみられた。この細胞の脱落は、側線原基内でアポトーシスした細胞が最終的に脱落したために生じていると予想している。また、Jaggedlbがアポトーシスを抑制する分子機構を明らかにするため、種々のアポトーシス経路を制御することで知られるがん抑制因子p53との関連性を調べた。その結果、p53を機能阻害することによって、jaggedlb機能阻害胚の表現型が抑圧されることを見出した。このことから、jaggedlbはp53を介したアポトーシス経路を負に制御していると予想された。
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