Notchシグナル伝達経路は、多細胞真核生物において保存されたシグナル伝達経路のひとつであり、個体発生において重要な役割を果たしている。申請者らは、NotchリガンドのひとつであるJagged1bの個体レベルでの機能を明らかにするため、ゼブラフィッシュをモデル系とした解析をおこなってきた。その結果、前年度までに、Jagged1bが抗アポトーシスにおいてNotch非依存的に機能することを示唆する以下の結果を得てきた。1)Jagged1b機能阻害胚では、側線原基内の細胞数が減少し、細胞のアポトーシスが増加する。2)Notchの機能阻害では側線原基内における細胞数の減少とアポトーシスの増加はみられない。3)種々のアポトーシス経路を制御するがん抑制因子p53を機能阻害することによって、jagged1b機能阻害胚の表現型が抑圧される。これらの結果から、jagged1bはp53を介したアポトーシス経路を負に制御していると予想された。本年度は、Jagged1bを介したアポトーシス制御機構をさらに理解するため、jagged1b機能阻害によって側線原基内での発現に変化が生じる遺伝子や機能阻害すると側線発生においてjagged1b機能阻害胚と同様の表現型を示す遺伝子を探索した。その結果、転写因子をコードするsix1の側線原基における発現がjagged1b機能阻害によって低下すること、および、six1機能阻害胚ではjagged1b機能阻害胚と同様に感丘数の減少と側線原基におけるアポトーシスの亢進が起こることを見出した。これらの結果から、Six1がJagged1bの下流で機能すると考えられる。今後は、Jagged1bによるsix1発現制御機構やSix1によるアポトーシス制御機構、特にp53との関係について解析をおこない、Jagged1bを介したアポトーシス制御機構の実体を明らかにしていきたい。
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