核内で転写・スプライシングされるHIV-1の4kb-RNAの細胞質への輸送は、異なる2種類の経路によって行われる可能性がある。ひとつはウイルスタンパク質Revを介したCRM1経路であり、もうひとつはスプライシング依存的にリクルートが促進されるTAP経路である。感染細胞を用いた先行研究から、4kb-RNAの核外輸送はCRM1経路であることが示唆されているが、TAP経路も利用されるのか、あるいはTAP経路は抑制されるのかは不明である。本研究では「4kb-RNAの核外輸送においてTAP経路は利用されるのか、抑制されるのか」を明らかにすることを目的とする。 HIV-1の4kb-RNAの核外輸送経路を解析するため、4kb-RNAを模擬するモデルRNAとCRM1経路、TAP経路それぞれに対する阻害剤を用いて、アフリカツメガエル卵母細胞への顕微注入実験を行った。その結果、モデルRNAの核外輸送においてRevタンパク質によってCRM1経路が誘導され、TAP経路の利用が抑制されることが分かった。さらに、顕微注入法とGST-TAPによるプルダウン法を組み合わせた実験によって、TAPのモデルRNA上へのリクルートがRevによって阻害されることも分かった。つまり、「4kb-RNAの核外輸送においてTAP経路は抑制される」ことが示唆された。以上の結果はアフリカツメガエルの卵母細胞を用いた解析によるものだが、次にヒトの細胞で再現できるかを調べた。そのため、HeLa細胞核抽出液を用いた試験管内スプライシング反応およびRNA免疫沈降実験を組み合わせた解析を行った。その結果、期待通りTAPのモデルRNA上へのリクルートがRevによって阻害された。 以上の結果は、RNAの核外輸送が一通りに規定される機構を明らかにする手掛かりとなるだけではなく、新規抗HIV-1薬の創出につながるものであると期待される。
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