核内で転写・スプライシングされるHIV-1の4kb-RNAの細胞質への輸送は、異なる2種類の経路によって行われる可能性がある。ひとつはウイルスタンパク質Revを介したCRM1経路であり、もうひとつはTAP経路である。ウイルス感染細胞を用いた先行研究から、4kb-RNAの核外輸送はCRM1経路であることが示唆されているが、TAP経路も利用されるのか、あるいはTAP経路は抑制されるのかは不明である。本研究では「4kb-RNAの核外輸送においてTAP経路は利用されるのか、抑制されるのか」を明らかにすることを目的とする。平成21年度において、4kb-RNAを模擬するモデルRNAを用いた、アフリカツメガエル卵母細胞への顕微注入実験によって、4kb-RNAの核外輸送においてTAP経路が抑制されることが示唆された。平成22年度においては、より感染細胞に近い条件で検証するため、ウイルス由来の4kb-RNA上へのTAPのリクルートを調べた。具体的には、HIV-1由来のDNAプラスミドをヒト培養細胞のHEK293Tにトランスフェクションし、4kb-RNAを模擬するRNAを発現させた。その後、ホルムアルデヒドによって複合体を形成しているRNAとタンパク質とを架橋させ、細胞ライセートを調製した。その細胞ライセートを用いてTAPに対する抗体で免疫沈降を行い、共沈降するRNAをRT-PCRによって解析した。その結果、TAPのウイルスRNA上へのリクルートがRevの発現によって抑制されることを見出した。つまり、「4kb-RNAの核外輸送においてTAP経路は抑制される」ことがヒト培養細胞においても確認できた。以上の知見は、RNAの核外輸送が一通りに規定される機構を明らかにする手掛かりとなるだけではなく、抗HIV-1創薬や、HIV-1と同様の遺伝子発現制御機構を利用すると考えられるHLTV-1の新たな理解につながるものであると期待される。
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