本研究目的「ミトコンドリア由来のROSにより、どのような細胞内ストレス応答が生じ、どのように細胞が死へと導かれるのか?および、その機構にどのようなタンパク質因子が関与しているか?の解明」を達成する手段としてミトコンドリア内でROSを人工的に誘導する実験動物培養細胞系を構築した。現在までに、ヒト細胞HeLaとHEK293T、マウス細胞MEF、および酵母S.cerevisiaeにおけるROS発現誘導細胞を作製した。当該年度内において、これらの細胞を用い、本申請研究計画書に記載した「(i)遺伝子レベルでの応答変化、(ii)タンパク質レベルでの応答変化、(iii)形態学的な応答変化」の情報を得るための様々な実験を実施し、下記の「ROSによる細胞内ストレス応答の経時的流れ」を突き止めた。 ミトコンドリア内でROSが発生すると、まずミトコンドリアの断片化および膜電位の低下が生じ、その後、傷害を受けたミトコンドリアの除去に働くことが示唆されるParkinタンパク質がミトコンドリア上に凝集してくる事が判明した。その後、ATPの急激な低下を生じ、細胞膜の破綻(細胞死)へと導かれて行く事がわかった。カスペース阻害剤を用いた実験から、細胞死はカスペース依存的細胞死(アポトーシス)ではなく、非依存的細胞死(ネクローシス)である事も判明した。パーキンソン病発症の原因因子の一つであるParkinタンパク質と傷害ミトコンドリアとの相互作用(関連性)は近年報告され、非常に関心の高い研究領域になっている。しかし、その関連性の生理的意義や分子メカニズムには不明な点が多く残されている。今回、自身の構築した系においても、同様の相互作用が示されたため、この系を用いる事でパーキンソン病発症の分子メカニズムの解明にも発展すると考えられる。また、現在、薬剤およびRNAiライブラリーによるスクリーニングを実施中であり、上記のストレス応答の流れに関与する未知の因子の単離同定を目指している。
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