本研究目的「ミトコンドリア由来のROSにより、どのような細胞内ストレス応答が生じ、どのように細胞が死へと導かれるのか?および、その機構にどのようなタンパク質因子が関与しているか?の解明」を達成する手段としてミトコンドリア内でROSを人工的に誘導する実験動物培養細胞系を考案し、昨年度(H21年度)までに、ヒトHeLaとHEK293T細胞およびマウスMEF細胞におけるROS発現誘導細胞を作成した。当該年度内において、これらの細胞を用い、本申請研究計画書に記載した「(i)遺伝子レベルでの応答変化、(ii)タンパク質レベルでの応答変化、(iii)形態学的な応答変化」の情報を得るための様々な実験を実施し、下記の「Rosによる細胞内ストレス応答の経時的流れ」を突き止めた。 ミトコンドリア内でROSが発生すると、ミトコンドリアの断片化および膜の膨張が生じる事を電子顕微鏡レベルでの解析で明らかにした。また、ミトコンドリア膜電位の低下後、傷害を受けたミトコンドリアの除去に働くことが示唆されるParkinタンパク質がミトコンドリア上に凝集してくる事を見いだした。加えて、カスペース阻害剤を用いた実験から、ミトコンドリアROSにより引き起こされる細胞死はカスペース依存的細胞死(アポトーシス)と非依存的細胞死(ネクローシス)の両者が組み合わさっている事も判明した。現在、薬剤およびRNAiライブラリーによるスクリーニングを実施中であり、上記のストレス応答の流れに関与する未知の因子の単離同定を目指している。さらに、in vivoにおけるミトコンドリアROSの影響を解明する手段として、モデル生物線虫(C.elegans)を本研究に新たに導入した。当該年度内において、既に線虫の筋肉細胞のミトコンドリアでROSを発生可能なトランスジェニック線虫の構築に成功しており、このモデル生物を用いた様々な実験に着手したところである。将来的に、線虫の遺伝学を用いたスクリーニング系により、ストレス応答の流れに関与する未知の因子の単離同定へと展開させて行く予定である。
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