多細胞生物が恒常を維持するには、上皮の持つバリア機能により組織内外が分け隔てられる必要がある。上皮細胞がバリア機能を発揮するためには、閉塞した細胞間接着により細胞間の隙間を介した物質の自由拡散を阻止する事が重要である。バリア機能の破綻は組織の不全や癌化の原因ともなるため、閉塞した細胞間接着の形成に関わる機構の解明は医学的にも重要である。本研究では、脊椎動物の上皮細胞と多くの共通点を持つ節足動物ショウジョウバエの上皮細胞をモデルに、上皮バリア機能に関わる新しい進化的に保存性の高い因子を同定し、上皮バリアの新しい機構を先駆的に解明する事を目的とした。そのような新規因子を同定するために、節足動物のバリア機能に関与するセプテートジャンクション(SJ)、その中でも研究の進んでいない内胚葉由来のスムースSJ(sSJ)に注目し解析を進めた。本年度は、節足動物の内胚葉由来上皮としてカイコの中腸を材料とし、sSJが多く含まれる細胞膜分画を単離後、それを抗原としたモノクローナル抗体を作成した。その結果、sSJ部位を認識する抗体の獲得に成功し、続いて抗原タンパク質の免疫沈降とその質量分析により、機能未知の1回膜貫通型蛋白質を同定した。Slfと仮に名付けたこの膜蛋白質は、進化的に保存されている蛋白質である事が判明した。ショウジョウバエのSlfに対する抗体を作成した所、中腸のsSJに特異的に局在する事が判明した。さらに、ショウジョウバエSlfの遺伝子変異系統のホモ接合型は致死であり、電子顕微鏡による観察で中腸上皮の細胞間接着に異常が見られる事も明らかにした。来年度はさらにこの遺伝子変異系統の解析を進め、中腸におけるバリア機能への影響やその制御機構を明らかにしていく予定である。
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