F-BAR/EFCドメインは近年新たに見出された脂質結合・生体膜変形ドメインであり、アクチン細胞骨格制御やエンドサイトーシスに関与している。我々はF-BAR/EFCドメインを持つチロシンキナーゼサブファミリーFerに着目し、詳細な機能解析を行った。 前年度までの解析により、Ferは曲率の大きな生体膜(直径の小さな人工小胞膜)によって特異的に活性化されることが明らかとなった。そこで、本年度はこの生体膜の曲率を特異的に認識する機構の解明を試みた。組み換えタンパク質を用いた検討から、FerチロシンキナーゼのFXドメインのうちC末端側に存在する約50残基の領域が、曲率認識に重要であることが明らかとなった。この領域はHeliquestアルゴリズムによって両親媒性のαヘリックスを形成することが予想されたため、モデリングに基づいて疎水性面に位置するPhe421番、Ile428番、Ile432番をそれぞれGlu残基に置換したところ、曲率依存的な生体膜結合をほぼ完全に失った。したがって、FerのFXドメインはこれまで知られている生体膜の曲率認識領域である「ALPSモチーフ」と同様の機構によって曲率依存的な膜結合を行っていることが示唆された。 細胞レベルにおいてもRNA干渉法による内在性Ferタンパクのノックダウンによって、トランスフェリンの細胞内取り込みが顕著に抑制された。このことから、細胞膜の曲率変化に依存したFerチロシンキナーゼの活性化が、実際のエンドサイトーシスにおいて重要な役割を担うことが強く示唆された。
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