本研究は、上皮細胞の細胞間接着部位近傍においてアクチン細胞骨格の構造や動態が制御される仕組みを解明することを目的とした。細胞間接着部位の近傍には、細胞間接着に平行な「裏打ちアクチン」と、直角な「ラディアルアクチン」が存在する。裏打ちアクチンは、細胞間接着に沿って細胞周囲を取り囲むように常に存在するのに対し、ラディアルアクチンは細胞間接着形成過程で一過的に形成される。 今回、ラディアルアクチンの形成にはArhGEF11が必要であることを見出した。ArhGEF11は細胞間接着の中でも特にタイトジャンクション(密着結合)の裏打ち部位に局在し、低分子量Gタンパク質Rhoを活性化する役割を持つ。ArfGEF11を特異的にノックダウンした細胞では、カルシウムスイッチ実験系において細胞間接着が形成される過程でラディアルアクチンが形成されなかった。また、ArhGEF11を過剰発現すると上皮細胞のアピカル膜が収縮することから、ArhGEF11はアピカル膜張力を正に制御していることが分かった。この活性は、Rhoの活性化を介していた。Rhoの活性化はアクチンの重合、アクチン-ミオシン細胞骨格の収縮を引き起こすことから、ArfGEF11は、細胞間接着部位が形成される過程で、Rhoを活性化することでアクチン細胞骨格を形成し張力を発生させることによって、細胞と細胞の間の張力のバランスを制御していると考えられる。実際に、ラディアルアクチンには、収縮力を持つと考えられるリン酸化ミオシンが集積していることが確認された。
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