研究課題
脂質二重層を構成する生体膜リン脂質はスフィンゴ脂質とグリセロリン脂質に大別され、その極性基や脂肪酸鎖の違いにより1000種類以上の分子種が存在する。これらのリン脂質は、膜二重層の細胞内外の非対称性、あるいは形質膜、各オルガネラ膜における特異的な分布など、厳密な制御のもとに構成されている。しかしながらこのような「生体膜リン脂質の空間的ダイナミズムを調節する代謝マシーナリー」は、未だ十分に理解されていない。本研究では、生体膜リン脂質のスフィンゴ脂質に着目して、生体膜スフィンゴ脂質の代謝マシーナリーと生物機能の解明を目指している。21年度は、(1)酵母を用いたセラミドシグナリング分子メカニズム解明(2)酵母を用いたスフィンゴ脂質の代謝制御メカニズムと生物機能の遺伝学的解析を行った。(1)約4800個の非必須遺伝子が個別に破壊された酵母ノックアウトライブラリーを用いてスフィンゴ脂質代謝異常に対する抵抗性変異株のスクリーニングを行った。その結果、セラミドの蓄積に対する耐性株として極長鎖脂肪酸合成酵素遺伝子欠損株を見出した。この結果は、セラミドの脂肪酸部分の構造が、セラミドの生理機能の発揮に重要であることを示唆している。(2)スフィンゴ脂質代謝異常に対する高感受性変異株のスクリーニングを通して、ホスホイノチシド及びホスファチジルセリンの代謝異常下において、複合スフィンゴ脂質の特定のサブタイプ(α-hydroxylated M(IP)_2C)が、酵母の生育に必須であることを見出した。また、この複数のリン脂質の機能的相互作用が、液胞形態形成や形質膜、初期エンドソーム、ゴルジ体間のタンパク質輸送等の膜輸送機構に関与することを明らかにした。これらの結果は、スフィンゴ脂質単独の生理機能だけでは説明できない「生体膜リン脂質の重層的なネットワークによる膜機能維持」の存在を示唆している。
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Journal of Biological Chemistry 284
ページ: 9566-9577