真核生物の遺伝情報を担うゲノムDNAは、細胞周期S期に複製されたのち、M期において高度に折り畳まれた凝縮染色体としてスピンドルのはたらきによって二つの娘細胞に分配される。細胞周期M期において起こる染色体の凝縮と分配を含む一連のM期特異的イベントは、Cdk1/サイクリンBおよびそれとほぼ同時期に活性化されるM期キナーゼ群による標的タンパク質のリン酸化を介して引き起こされると考えられている。本研究では、M期特異的な染色体動態を生み出すメカニズムを明らかにする目的で、染色体の凝縮と分配に必須なタンパク質複合体「コンデンシン」のM期特異的リン酸化による制御機構の解明を目指している。高等真核生物のコンデンシンは二つのホロ複合体コンデンシンIとコンデンシンIIが存在するが、これまでコンデンシンの生化学的解析は主に細胞から精製してきたnativeなタンパク質複合体を用いて行なわれてきた。これはコンデンシンがそれぞれ分子量約90-170キロダルトンの五つのサブユニットから成る巨大分子複合体であり、組換えタンパク質の発現・精製が容易で無かったためである。そこで我々は試験管内における組換え体を用いた生化学的解析を可能にする目的で、新たな組換えコンデンシン複合体の発現・精製系の構築を試み、その結果活性型複合体の再構成系確立に成功した。得られた再構成組換え複合体は、カエル卵細胞抽出液においてnativeタンパク質複合体と同様にM期特異的にリン酸化され、染色体の凝縮を引き起こすことができた。今回確立された組換えコンデンシン複合体の再構成系は、リン酸化によるコンデンシンの制御機構の解明のみならず、染色体の構築においてコンデンシンが果たす役割とその分子機能の全容解明に近付くためのきわめて重要な実験系であり、今後この系を中心に用いてさらに解析を進める予定である。
|