真核生物のM期染色体構築に必須な役割を果たすコンデンシン複合体は、ATP結合モチーフを持つ2種のSMCコアサブユニットと、3種のnon-SMCサブユニットから成り立っている。コンデンシン複合体がいかにしてM期染色体の構築を担っているのか、その分子機構についてはまだ不明な点が多い。染色体の凝縮と分配を含む一連のM期特異的イベントは、Cdk1/サイクリンBおよびそれとほぼ同時期に活性化されるM期キナーゼ群による標的タンパク質のリン酸化を介して引き起こされると考えられ、コンデンシン複合体の場合も、non-SMCサブユニットがM期特異的にリン酸化されることが報告されている。しかしながら、生体内ではサブユニットを一つ欠失させるだけで細胞に致死的影響があるために詳細な機能解析は困難であり、各サブユニットがコンデンシンの機能において果たす役割を解明するための実験系の確立が必要とされていた。そこで我々は、組換えサブユニットを用いたコンデンシンの生化学的解析を可能にする目的で、哺乳類コンデンシン複合体の発現・精製系の構築を試み、活性型の組換え複合体の再構成に成功した。この実験系の確立によって、五つのサブユニット全てが揃ったホロ複合体だけでなく、特定のnon-SMCサブユニットを一つあるいは複数欠失させたサブ複合体の解析が可能となった。ホロ複合体とサブ複合体とを比較解析することにより、染色体の凝縮およびコンデンシン複合体の染色体への標的化における各々のnon-SMCサブユニット独自の制御的役割を明らかにした。本研究で得られた成果は、染色体構築におけるコンデンシン複合体全体の分子機構の理解において、これまでに無かった新規な視点を与えるという意味できわめて重要である。また本研究で用いたアプローチはコンデンシン以外の巨大分子複合体の解析にも応用可能なものであり、将来における技術的な貢献も期待できる。
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