研究概要 |
繊毛虫テトラヒメナの大核と小核では、核膜孔タンパク質の一種Nup98が異なっており、この違いがそれぞれの核に対する選択的な核内輸送に深く関わっていることを報告した(Iwamoto et al, 2009)。最終年度は、核選択的なNup98と核内輸送系の核分化過程における役割を明らかにするため、未分化核のNup98が大核タイプまたは小核タイプへ切り替わるタイミングを詳細に調べるとともに、そのことが核分化に対してどのような機能的な意味を持つのかについて検討を行った。 接合と呼ばれる有性生殖過程では、小核が減数分裂によって半数体の前核となり、接合細胞間で前核融合が起こって、新たな核型の未分化核(受精核)を生じる。減数分裂から受精核形成に至る間に、これらの核に局在するNup98の種類を調べたところ、全期間を通じて小核タイプのものであることが分かった。このことは、小核に由来する前核および未分化な受精核が、小核と同等もしくはそれに近い性質の核膜孔複合体を持っていることを示しており、これらの核を増殖細胞へ移植すると小核として機能するというゾウリムシでの研究結果(Harumoto and Hiwatashi, 1982)と一致する。受精核の2回の核分裂で生じた4つの未分化核のうち、大核へ分化する2核では、直前の核分裂後ただちに大核タイプのNup98が核膜上へ局在を始めることが分かった。大核タイプの局在が始まると、小核タイプのNup98は核膜上から徐々に取り除かれた。また、大核タイプのNup98が局在を開始するタイミングは、大核ゲノムの形成に必須のタンパク質因子が、新大核内へ移行するより~30分先行した。このことから、新大核のゲノム分化を引き起こす機能性因子群が新大核へ選択的に輸送されることを保障するのは、先立って起こる核膜孔複合体と核内輸送系の大核化であることが示唆された。
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