本研究は、ウニの初期胚において一次軸形成と二次軸形成のインターフェイスで働くFoxQ2およびその下流因子が二次軸形成を阻害するメカニズムの解析を目的としている。FoxQ2が発現している神経外胚葉は、二次軸形成因子であり腹側外胚葉を誘導するNodalとその下流因子で背側外胚葉を誘導するBMP2/4による非神経外胚葉形成の影響を受けない。これは神経外胚葉が二次軸形成ジグナルを打ち消すメカニズムを備えていることを示唆している。そこでFoxQ2阻害胚を用いたマイクロアレイ解析を行い、発現量が抑制された因子の中で、その時空間的発現パターンからFezを候補因子として機構解析を行った。Fez抑制胚では神経外胚葉のサイズが縮小し、非神経外胚葉領域が拡大したため、それらを誘導するNodalおよびBMP2/4との関連を調べた。その結果、NodalとFezを両方抑制した胚ではFezのみを抑制した胚と同様神経外胚葉のサイズ縮小が見られた。一方、BMP2/4とFezを同時に抑制した胚では神経外胚葉のサイズ縮小は見られなかった。これはBMP2/4が二次軸形成過程において非神経外胚葉を誘導する際、神経外胚葉領域においてはFezがその機能を抑制していることを示唆している。神経外胚葉領域におけるBMP2/4のシグナルの強度を可視化するため、BMPシグナルの細胞内媒介分子であるSmad1/5/8のリン酸化状態を調べた。正常胚において背側外胚葉で高いリン酸化状態を示すSmad1/5/8が神経外胚葉では極端に低い状態に抑えられていた。しかし、Fez抑制胚ではSmad1/5/8のリン酸化が高い状態で維持されており、正常胚で神経外胚葉領域になる位置の細胞でも、高いリン酸化状態を示す領域は非神経外胚葉に分化していることが示された。このことはFezが神経外胚葉領域特異的にBMP2/4のシグナルを抑制していることを示している。以上よりFoxQ2は自身の発現を抑制する二次軸形成因子BMP2/4に対して、Fezを誘導しBMP2/4シグナルを抑制することで神経外胚葉のサイズを保っていることが明らかになった。
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