Kif26bノックアウトマウスは腎臓欠損という表現型を示す。これは腎臓発生の初期に見られる尿管芽の後腎間葉への侵入が起こらないことに起因するが、Kif26bがどのように尿管芽侵入を制御するのか、そのメカニズムは明らかになっていなかった。さらにKif26bの分子機能もこれまで明らかになっていない。本研究課題において、Kif26bノックアウトマウスでは尿管芽に直に接する後腎間葉の細胞形態に異常があること、後腎間葉から放出される尿管芽誘引因子であるGDNFの発現が減少していることが見出された。さらにKif26bの結合タンパク質の探索を行い、アクチン結合タンパク質であるNMHCIIBを同定した。Kif26bを293細胞に過剰発現させると細胞は凝集塊を形成するようになるが、NMHCIIBのノックダウン、または特異的阻害剤で処理すると凝集塊は形成されない。さらにN-cadherinをノックダウンしても凝集塊は形成されないことから、Kif26bによる凝集塊形成はNMHCIIBと細胞間接着分子を介して行われていることが示された。またKif26bは微小管に結合するもののATPase活性は有しておらず他のキネシンファミリー蛋白質のようにモーター分子として機能しないこと、Kif26bの細胞内局在は微小管によって規定されていることも見出された。後腎間葉でのGDNFの発現はintegrin α8から始まるシグナル伝達により制御されており、Kif26b欠失後腎間葉ではintegrin α8の局在に異常が見られた。これらの結果は、微小管に基づくKif26bによる後腎間葉細胞間接着の制御がintegrin α8を介したGDNFの発現に必要であることを示唆しており、Kif26bノックアウトマウスの表現型を説明し得るものである。
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