精子形成を維持している精原幹細胞は遺伝情報を次世代に継ぐことができるという他の組織幹細胞にはない特徴を持つことから、再生医療のみならず不妊治療や様々な産業動物の遺伝子組換え個体の作成などの多くの分野で応用が期待されている。本研究は、精原幹細胞の自己複製機構と分化の過程を細胞・分子レベルで明らかにするために、分化型精原細胞と比較してマウス精原幹細胞特異的に発現する核タンパク質を網羅的に解析することを目的としている。 前年度までに、核プロテオーム解析によって精原幹細胞特異的に発現する25タンパク質と、分化型精原細胞に特異的に発現する6タンパク質を同定した。これらのタンパク質には精子形成への関与を示唆する報告はなく、さらに精原幹細胞の自己複製や分化に関する知見は皆無であった。 当該年度はプロテオーム解析により同定したタンパク質について、マウス精原幹細胞の自己複製や分化の過程における機能の解明を試みた。 (1)マウス精原幹細胞における発現解析 ウェスタンブロット法によって発現解析を試みたが、特異性が高い抗体が得られず検出することができなかった。そこで、定量的RT-PCR法によって同定タンパク質をコードするmRNAの発現量を解析したところ、7種の遺伝子がプロテオーム解析の結果と一致する発現パターンを示した。 (2)マウス精原幹細胞への遺伝子導入 精原幹細胞で働くことが確認できているEF1aプロモーターを用いて、前述した7種の遺伝子のうちマウス精原幹細胞において特異的に発現することを確認できた2種の遺伝子の発現ベクターをそれぞれ構築した。現在、この2種の遺伝子を過剰発現する精原幹細胞株を作製している。選択した細胞株が得られた場合には、未分化状態の維持及び分化能について解析することを計画している。
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